2010年3月6日土曜日

経済改革を通じた国づくり

1965年から6年間、ルワンダの中央銀行の総裁としてルワンダの経済再建に取り組んだ服部正也氏の著書『ルワンダ中央銀行総裁日記』を読みました。


「アフリカなんかへゆくのはやめてよ、たれかほかの人にいってもらってよ」と小声で言う息子さんをあとに、今から40年以上も前のルワンダに服部氏は「中央銀行総裁」として乗り込み、着任早々ルワンダの大統領に「まず私から質問したいのですが、閣下の政策は一体どういうものでしょうか。技術は本来中立性のもので、政策があっての技術ですから。(中略)具体的にいえば、ルワンダ経済の急速な成長を求められるか、それとも成長速度は若干遅くても、国民の恒常的な発展を望まれるかということです」と率直に問いかけます。


それに対して、大統領から「私は国全体が一時的な急速な成長をすることよりも、ルワンダ人大衆とその子孫との生活が徐々であてもよいから改善されてゆくのを望んでいるのだ」との要請を受けた結果、服部氏は通貨改革に留まらず、倉庫株式会社の新設、コーヒー経済の再編成、そして、バス公社の改革を含む幅広い経済改革に取り組むことになります。


また、服部氏は、現実を丁寧に読み解くことによって、旧宗主国を含むヨーロッパの国々から派遣されている技術顧問のいい加減さを露呈させ、一方で、日本銀行での20年に渡る勤務経験に裏打ちされる金融に係る専門性を十二分に発揮しながら、テクノクラートとして自らのマンデートを忠実にこなしていきます。

「アフリカにしがらみがない日本人だからこそ、現地の人々のことを最優先に考えることができる」という言葉は言いふるされた言葉ではありますが、服部氏の背中はそれを如実に物語っているように思えます。


独立直後のルワンダは極度の貧困状態のため物資調達にも苦労し、ひげを剃るために鏡を買いに出かけたら割れて錆びた鏡しか手に入れることができなかったというエピソードを読んだときには、「私が今いる場所の方がずっと生活環境はいいな」と思いました。


来年南部スーダンが独立するとすれば、中央銀行と通貨が南部スーダンでも新設されますが、そうなった場合、40年以上前のルワンダの教訓が現在の南部スーダンに生きてくるかもしれません。



「私は感心した。世界的企業の子会社で、アフリカに十五年も働いている支配人をもつハトン・アンド・ククソンが資金の使い方を誤っているのに、このみすぼらしいルワンダ人商人が正しい使い方を心得ているのである。この会話を契機に私は、ルワンダ人も商業的能力はあるのではないかという眼でルワンダ人と接するようになった。この姿勢をとると今まで気がつかなかった彼らの能力がわかってくるようになった。」

「通貨改革の意味は、ルワンダを苦しめている複雑怪奇な制度を潰して、働けば栄えるという簡単な制度を新たにつくることなのです。」

「途上国の発展を阻む最大の障害は人の問題であるが、その発展の最大の要素もまた人なのである。」

『ルワンダ中央銀行総裁日記』服部正也 より

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

始めまして。
浅草の日高さんの義妹でブランカです。
Eriさんが南スーダン理数科分野現職教員研修支援計画の一員として南スーダン政府科学省に技術指導や助言を行うために派遣されてると伺いました。ブログを紹介され読ませて戴いてます。
読書の楽しみは共に感動した読後感を語り合えることでしょうか。
服部正也 著『ルワンダ中央銀行総裁日記』を早速手にし、一気に読んでしまいました。

服部氏がルワンダでの通貨制度の組織作りと経済再建計画の企画と実行を成し遂げたいきさつについて大変分りやすく数値を上げて記録されてます。
日銀で培った洞察力や経験に人柄が加わり、ルワンダの経済たてなおした思考の手順は今でも新鮮で見習う事がありますね。
40年前の著作なのに増版されるわけです。

Eri さんのコメント...

ブランカさん。
はじめまして。
コメント、ありがとうございます。

私自身は、教育省に派遣されているわけではなく、日本の援助機関の駐在員として、教育や農村開発の事業を担当しています。

服部氏の率直な物言いと愛のある態度は素晴らしいですよね。

私の上司の口癖は、「愛のない援助は嫌いだ」なのですが、プロフェッショナリズムの追及だけでなく、服部氏の人柄が経済改革を実施していく上での潤滑油になったのは間違いないでしょうね。

今生きていらしゃったら、間違いなくプロジェクトXなどの番組で取り上げられていただろうなぁと思います。

アフリカの片田舎で、服部氏の本に励まされた私です。