2010年5月31日月曜日

友のことば

「今日もえりの上に上等な風がふいてますように」


もらったメールにさりげなく書いてあることにとても励まされることがある。


アフリカに来てもうすぐ1年。

もう数えきれないほどそういうメールをもらった。

ただもらい続けるだけでなく、私もそういうメールを送ることのできる人でありたいと思う。


もうすぐ折り返し地点。


明日からもがんばろう。


◎車窓からの風景

2010年5月29日土曜日

もうひとつのスーダン

スーダンのことを取り上げた日本語の文献が少ない中で、20104月に『悲しみのダルフール』という著書が発売されました。

アフリカ系黒人女性としてダルフールのある村に生まれた主人公は、強い意志と父親からの愛情に導かれながら、アラブ人による数々の差別や伝統的な女性に対する価値観など、様々なものと闘い続け、ハルツーム大学で医師になります。


その後、民族の差別なく患者へ治療を施す彼女の姿勢を面白くない思うアラブ系の政府からの圧力により、彼女はダルフールの僻地の保健所にとばされるのですが、そこでも彼女は民族の差別なく患者への治療を続けます。


ある日、女子小学校がジャンジャウィード(アラブ系の遊牧民。アラブ系の政府から支援を受けて、ダルフールに住むアフリカ系黒人に残虐な行為を繰り返す集団として知られている)に襲われ、たくさんの女子生徒が被害にあいます。


彼女たちの治療にあたり、その事実について国連機関に話した主人公は、ジャンジャウィードに捕まってしまい、暴力や性的暴行を受け、身体的にも心理的にもボロボロになります。いったん自分の故郷に戻ったものの、ジャンジャウィードから追い続けられる彼女はスーダン国内を逃げ回った後、結局ロンドンに亡命します。


そこでも、難民申請を何度も却下され、それでも闘い続けた主人公…


これだけの悲劇について語る勇気を持てた主人公の強さに心打たれるとともに、国家が一人の女性の運命をここまで翻弄できるものなのかと悲しみと憤りの混ざった気持ちになります。


スーダンの首都ハルツームや南部スーダンからは垣間見ることのできないアラブ系政府の別の顔…


ダルフールで
2003年に紛争が勃発してから、40万人の命が奪われ、250万人が難民化しているという数字があります。この数字については、誇張して伝えられているという議論もあり真相は定かではないものの、これらの惨事をくぐりぬけてきた女性の手記は、数字の議論を超えて、「我々に何ができるのか」ということを真正面から問いかけてきます。

2010年5月24日月曜日

今そこにある危機

ジュバから車で1時間ぐらいの郊外に行くと、使われていない学校や保健所などの施設をたくさん目にします。


復興支援の一環として国際機関やNGOによって建設された施設で、プロジェクト期間が終わった後は南部スーダン政府に施設を譲り渡し南部スーダン政府がそれを管理・運営していくという約束のようなのですが、その施設をまわしていくだけの資金とシステムが南部スーダン政府にはないので、結局その施設やその中の資機材が使われないまま朽ち果てていっています…


この話だけを聞くと、まだ援助機関はそんなことをやっているのかという批判を受けるでしょう。

でも…現場にいるとその援助機関のロジックも分かります。


例えば保健セクター…


1000人中250人の子どもが亡くなってしまい、妊産婦の死亡率が世界で最も高いと言われている南部スーダンで、保健所や病院を通じた医療サービスを現地の人々に提供しなければならないというのは誰の目にも明らか。

そのため、このような事業には国際社会からもお金がつきやすい。

さらに、現地の人も病院へのアクセスが最優先課題だと訴える…

これらの3つの要素が重なって、内戦直後に農村部では保健所などの施設が建設され、NGOによってその施設がしばらくの間運営される…

でも、プロジェクトの期間には限りがあるので、その期間が終了した後には、政府に運営資金とスタッフを提供することを紙面上で約束させて、その施設を譲り渡す…

しかし、そもそも保健所のような政府の末端の施設にまで運営資金が適切に流れていくような仕組みや人事制度が整っていない政府は、結局そのような施設をもてあましてしまい、頑丈な鍵をかけて管理という名のもとに放置してしまう…


「緊急援助」から「開発援助」への切れ目ない移行が必要だと言われて久しいですが、現場ではなかなかそれがスムーズに行かず、試行錯誤は続きます。


「今そこにある危機」に対応しつつ、長期的に持続可能な制度づくりをどのように行っていくか…


国際協力とは地味で粘り強い試みの積み重ねなのだなぁと実感しています。


◎使われずに山積みになた薬と保健所

2010年5月23日日曜日

「共生」という思想

緒方理事長が先月ハーバード大学で講演を行いました。


そこで理事長は、(「日本では一般的に人道援助については理解を得やすいものの、開発援助については中長期的な取り組みが必要であり成果がすぐに目に見えないことから理解を得るための努力が必要」と話しつつ、)「現在のグローバル化が進んだ相互依存の世界では、国際協力は、共生のための生存手段である」とのメッセージを発信されました。


日本にいるとなかなか外とのつながりを実感することは少ないかもしれませんが、アフリカのスーダンのような国にいても日本とのつながりは日々実感します。


街中を走っている車はほぼ日本車で、そのうちのかなりの数が日本から輸入している中古車です。
ラジオからは日本のニュースも流れてきます。
そして、藁ぶき屋根と土壁でできた家が乱立するところから、大都市東京まで2回飛行機を乗り継げば2日もかからずに到着します。


私たち日本人が望むと望まざるとに関わらず、私たちは確実にいろいろな形で他の世界と繋がって(connected)いる…


「共生」という思想と、それを実現させるための行動が今の時代ほど必要とされるときはないかもしれません。


◎緒方理事長の講演の概要
http://www.jica.go.jp/topics/2010/20100430_01.html

2010年5月22日土曜日

南部スーダン大統領就任式

昨日は南部スーダン大統領の就任式が行われ、急遽公休日になりました。


ウガンダ大統領、ケニア前大統領や、スーダン全体の副大統領、各国大使や援助機関のトップを招待した盛大なセレモニーだったようです。


1時間にも及ぶ演説で南部スーダン大統領は、今後の五カ年計画の骨子を発表し、母子の死亡率低下、保健や教育システムの改善、経済成長に関わる農業の発展を目指すことなどを誓ったとのこと。


総選挙が無事に終わったので、最近は来年1月のレファレンダム(南部スーダンの独立を問う住民投票)の記事を多く見かけます。

今後はレファレンダムに向けた動きが加速していくのでしょうか…


一部では、今年の10月以降はレファレンダムの準備で南部スーダン政府自体が機能しなくなってしまうのではないかという話もありますが、「政治」の話ばかりが大きくなり「開発」が置き去りにされないことを祈るばかりです。



◎セレモニーが開催された故ジョン・ギャラン メモリアル

2010年5月21日金曜日

会議は踊る

今週は月曜日と金曜日は突然祝日になったのですが、それにも関らず会合の多い一週間でした。


教育セクターのドナー会合

ワシントンDCからの世銀ミッションとの会合

教育省の2010年予算に係る会合

農業・農村開発セクターのドナー会合

ジュバ大学関係者との会合

ローカルNGOとの会合

担当プロジェクトのプロジェクトマネージャーとの会合…


印象的だったのは、世銀本部からのミッション。


20113月までに終わらせなけばならないEducation Rehabilitation Program (ERP)の進捗状況を確認するためのミッションだったのですが、予定通りに進んでいないプログラムを巡って教育省と世銀の交渉が繰り広げられました…

調達基準をできる限り緩めて対応しているのだからこれ以上調達に関しては譲歩できないという世銀と、調達基準が厳しいため大事なプログラムの実施・進捗が遅れていることに対して怒りを隠せない教育省…

援助を受け入れる行政側に十分なキャパシティがない一方で、緊急に対応すべき課題(安全な水、初等教育、保健サービスの提供等)は膨大にあるといういわゆる脆弱国家(Fragile State)に対して、国際社会は支援を行う際にどのようなアプローチをとるべきなのか…


1つの大きなファンドを立ち上げてドナーはそこにお金を出し、国連や世銀のような機関がそのファンドを管理しながら、必要な資金をファンドから各省庁に提供していく

・フットワークが軽くコミュニティに直接サービスを届けることのできるNGOに事業をどんどん委託して現地の人々のBasic Human Needsを早急に満たしていく

・うちの組織のように、専門家を派遣し、時間がかかっても政府のキャパシティを強化することに重点を置いて事業を進めていく


きっと答えは一つではなくこれら3つの中間のようなところにあるのでしょうが、現地にいて相手国政府の日々のオペレーションを目の当たりにしていなければ、その「落としどころ」もなかなか見えてきにくいのかもしれません。


駐在をして1年近く経ちようやくそういう「感覚的なもの」が少しずつ養われているような気がしている今日この頃です。



◎ジュバ近郊の子どもたち

2010年5月15日土曜日

ドラッカーで繋がる野球部と途上国ビジネス

この本の表紙を見たうちの母親が、「あなたが漫画を読むなんて珍しいわね」と言ってきたのですが、これは漫画ではなく小説です。


日本に一時帰国したときに、この本(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』岩崎夏海著)が話題になっていると聞いて、スーダンに持って帰り読んでみました。


ストーリーは、進学校の高校野球部のマネージャーになった女の子が、マネージャーの役割とは何かを探し求めているときに、ドラッカーの『マネジメント』という本に出会い、その中に書いてあったことを忠実に野球部という組織の中で実行していった結果、弱小チームだった野球部を甲子園に連れていくことができたというもので、ドラッカーの経営論のエッセンスがかなりわかりやすく書かれています。


おもしろいのは、野球部を強くするための秘訣が、実は営利企業にも(うちの組織のような)非営利団体にも当てはまるというところです。


・(組織を管理・運営する)マネージャーが始めから身につけていなければならない資質は、才能ではなく「真摯さ」である。

・組織の顧客は誰かを考え、顧客のニーズを満たすということから始めなければならない(=マーケティング)。

・組織の目的は、人の強みを生産に結び付け、人の弱みを中和することにある。

・組織は、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てなければならない(=イノベーション)。


これを読んでいると、今BoP(Bottom of Pyramid途上国で年間3,000ドル(約27万円)未満で暮らす層(人々)=約40億人)向けに開発されようとしているビジネスモデルもこのドラッカーの『マネジメント』理論によく当てはまることが分かります。


・途上国の人たちと彼らの生活に真正面から向き合おうとする真摯さが必要(ビジネスをする際の心構え)

・企業が「売りたいものは何か」ではなく、「BoP層の人たちのニーズとは何か」から出発することが求められる(=マーケティング)

BoP層のビジネスはこれまでの「途上国向けの援助」という枠から完全に抜け出さなければならない…(=イノベーション)


野球部が強くなる秘訣と途上国の人たち向けのビジネスのエッセンスが実は共通だということ…素敵な発見です。


友人のSさんが、BoP層向けのビジネスを考えるためのコミュニティをWeb上で立ち上げています。おもしろい議論が展開されていますので、BoPに興味のある方はぜひ訪れてみてください。(私もメンバー登録しています!)

http://boplabjp.ning.com/

2010年5月11日火曜日

雨季のはじまり?!

ジュバの雨季は4月から9月ごろまでなのですが、今年は3月ごろから雨が降り出し「雨季がいつもより早く到来したのかな…」と思っていたら、その後は雨は降ったり降らなかったり…

完全にはまだ雨季に入っていないようです。

でも、断続的に降る雨のせいですでに道路には大きな水たまりが出現しています。



雨が降りだすと種まきの季節です。



去年の干ばつや民族紛争の影響などの影響で、今年は例年以上に南部スーダンは食糧不足に陥るのではないかという議論が援助関係者の間ではさかんに行われており、ドナー会合では主要テーマの一つとなっています。

きちんと雨が降って、作物が育ってくれると食糧不足も緩和されるのですが…



農作業を見ていると、なんだか祈りにも近い気持ちになります。

日本にいると、極端な話をすればお金さえあれば水も医療サービスもいつでもどこでも受けられますし、食糧不足を肌で実感することはまずありません。

ある意味、「祈る」というような気持ちからは程遠い…



でも、スーダンでは、雨が降らない→作物が育たない→食糧不足→人々の健康状態の悪化…と自然現象が人々の命に直接大きな影響を及ぼしてしまいますので、自分の力の及ばないものごとに対する「祈り」のような気持ちが自然と生まれてくる…



もちろん、国際社会は(自然によってもたらされる)「危機」にどう備えるかというシナリオを用意しておく必要があるのですが、やっぱりこういう土地にいると自然と人間の結びつきを肌で実感します。



本格的な雨季の到来まであと12週間といったところでしょうか。

少しずつ涼しくなってくる季節です。



◎種をまく農民たち