2005年に内戦が終結し、2010年には総選挙、そして、2011年にはスーダン南部の独立を問う住民投票が実施される予定のスーダンには、様々な国や国連機関、そしてNGOが援助を実施しています。南部スーダンを支援するドナー国会合には、世銀、国連機関、European Commission、アメリカ、ヨーロッパ諸国、中国、アフリカ諸国などからの参加者が集まるため、南部スーダンを支援する関係者の幅広さを実感します。
私の担当している教育セクターでは、月に一回程度情報交換の場としてドナーミーティングが開かれますが、そこにはアメリカ、北欧諸国、世銀、UNICEF等の関係者が集まり、それぞれのドナーが支援する事業の紹介や進捗状況の共有を行います。それぞれのドナーが教育省とだけ協議を行って事業を形成・実施することによって、支援分野に偏りやダブりがでないように、また、ドナー側が援助の実施方法をできるだけ統一することによって、援助を受け入れる教育省側の手間を省くことができるように、ドナー間の「援助協調」は重要な業務の一つです。特に教育セクターのように、62の事業が同時進行し(2008年)、援助関係者の数が多いセクターでは、どのドナーがどの分野を支援しているのかという全体像を把握するために、パズルのピースを一つ一つはめ込んでいくような作業が必要です。また、復興支援の現場では、プロジェクトの中身自体も状況にあわせてどんどん変わっていくことから、情報を把握するだけでなく、常にアップデートが必要になってきます。
ただ、「援助協調」という名の下で行われている試みが、新たなトランスアクションコストを生み、物事のスムーズな進捗を妨げている例もあり、「援助協調」=素晴らしい、という図式が必ずしも成り立たっていないことも確かです。例えば、南部スーダン政府は各ドナーがそれぞれの関連省庁と勝手に合意を結び、事業を実施することによって、ドナーからの資金の流れ全体を把握することが難しくなっているという状況を打開するために、全ての事業は、財務省が主催する全省庁の次官級レベルの役人が参加する委員会で承認されなければ実施できないというようなルールをつくったのですが、結局忙しい次官が一つ一つの事業の内容を検討するような委員会に参加できるはずもなく、暇な省庁の役人が参加しておしゃべりをするだけの場に委員会がなってしまっていることが挙げられます。
また、援助の現場では、様々なドナーのカラーが見えるため、その比較をするのはなかなか面白いです。例えば、アメリカ。アメリカは南部スーダン政府に資金を直接提供するようなことはあまり行わず、NGOに事業を委託するというような支援方法をとっています。そのため、南部スーダン政府側からしてみれば、アメリカが何をやろうとしているのか、そして、何をやっているのかわかりにくいようです…一方、一つ一つの事業をよく見てみると、例えば、南部スーダン全10州の教育省にコンサルタントを派遣し、そこで一緒に机を並べて相手側の能力強化を実施するといったような、地道だけれども地に足のついたいい支援をしていたりもします。南部スーダン政府は2005年にできた新しい政府のため、政府の役人でさえ、省庁に出勤しても何をすればいいのかわからないといったような人もいます…また、給料の支払いさえも3か月など普通に遅延するような状況では州政府には人件費以外の活動費がありません…そういった状況の中で、ドナーやNGOと州教育省をつないだり、アクションプランを一緒に作成したりするようなコンサルタントの存在は州にとっては大きな助けになっています。
また、南部スーダンでは、世銀は直接融資は行っていないものの、様々な国々が拠出した南部スーダン復興支援向けのファンドの運営を世銀が担っていることから、世銀は大きなプレゼンスを持っています。ファンドの管理者である世銀の姿勢は明確で、「計画者や実施者は南部スーダン政府。我々はお金を管理しているだけです。」一方、このファンドの下では、南部スーダン政府自身がプロポーザルを作成、提案し、そして、調達を実施しなければならないため、予定通りに物事がなかなか進んでおらず、南部スーダン政府側の「オーナーシップ」を尊重することは重要ですが、それをどこまでつきつめるかという難しい課題に現場は直面しています。
一方、UNICEF。南部スーダンの中に3つの拠点を持ち、全10州を対象にGo To School Initiativeを展開し、教師の訓練やChild Friendly Schoolの建設、学校運営の研修、Girls Incentive (女子を学校に行かせることによって家族に食糧がもらえるような仕組み)の実施、英語教育の提供など幅広く初等教育に係る事業を展開しているため、どんなに田舎の学校に行っても、UNICEFのシールやカレンダー、文房具を目にすることができ、UNICEFの影響力は絶大だなとどこに行っても感じます。また、南部スーダン政府の教育に係る政策を後押しするような支援もUNICEFの得意分野で、教育省とUNICEFが主催で様々なワークショップが開催されています。
教育セクターでは、NGOの役割も無視できません。政府の役割が極めて限られている南部スーダンのような地域では、NGOが政府の替わりの役割を果たしたり、政府のサポートを行ったり…例えば、教員研修のための教材づくりなどかなり専門的なことを行っているNGOもいます。
このように「事業」という無数のパズルが散らばっている中で、どこに自らの援助を位置付けて、はめ込んでいくのか…この作業を丁寧に行い、3年、5年後のパズルの絵を描いていけるようになることが駐在員の役割なのかな…と最近は感じています。
「どういうものを支援したら、5-10年後まで途上国の人たちに感謝されるか。それを考えて仕事ができるように。」
上司の一言 より
◎小学校の子供たち