2010年5月29日土曜日

もうひとつのスーダン

スーダンのことを取り上げた日本語の文献が少ない中で、20104月に『悲しみのダルフール』という著書が発売されました。

アフリカ系黒人女性としてダルフールのある村に生まれた主人公は、強い意志と父親からの愛情に導かれながら、アラブ人による数々の差別や伝統的な女性に対する価値観など、様々なものと闘い続け、ハルツーム大学で医師になります。


その後、民族の差別なく患者へ治療を施す彼女の姿勢を面白くない思うアラブ系の政府からの圧力により、彼女はダルフールの僻地の保健所にとばされるのですが、そこでも彼女は民族の差別なく患者への治療を続けます。


ある日、女子小学校がジャンジャウィード(アラブ系の遊牧民。アラブ系の政府から支援を受けて、ダルフールに住むアフリカ系黒人に残虐な行為を繰り返す集団として知られている)に襲われ、たくさんの女子生徒が被害にあいます。


彼女たちの治療にあたり、その事実について国連機関に話した主人公は、ジャンジャウィードに捕まってしまい、暴力や性的暴行を受け、身体的にも心理的にもボロボロになります。いったん自分の故郷に戻ったものの、ジャンジャウィードから追い続けられる彼女はスーダン国内を逃げ回った後、結局ロンドンに亡命します。


そこでも、難民申請を何度も却下され、それでも闘い続けた主人公…


これだけの悲劇について語る勇気を持てた主人公の強さに心打たれるとともに、国家が一人の女性の運命をここまで翻弄できるものなのかと悲しみと憤りの混ざった気持ちになります。


スーダンの首都ハルツームや南部スーダンからは垣間見ることのできないアラブ系政府の別の顔…


ダルフールで
2003年に紛争が勃発してから、40万人の命が奪われ、250万人が難民化しているという数字があります。この数字については、誇張して伝えられているという議論もあり真相は定かではないものの、これらの惨事をくぐりぬけてきた女性の手記は、数字の議論を超えて、「我々に何ができるのか」ということを真正面から問いかけてきます。

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