2009年9月23日水曜日

素晴らしいリーダー

実は、先週、南部スーダンで教育セクターを支援する援助関係者と教育省の役人が集まって、来年度の教育セクターの予算について協議をする会合があり、初めて私も参加したのですが、その場で、教育省の役人の一人が私の所属する組織を名指しで批判しました。「教育賞にお金をくれずに、自分たちの好きなように好きなことをやっているだけだ」と。南部スーダンに着任して一か月そこらの私に、彼の批判がどれだけ的を得たものなのかを判断するだけの材料も経験もなかったわけですが、きっと彼にそう思わせてしまう何かがあったのだけは確かなのだろうとその夜は落ち込みました。もっと我々の援助の仕方や哲学をわかってもらう努力をしなければ…と自分を奮い立たせていたのですが、今日、先週の落ち込みを挽回させるような嬉しい出来事があったのです。

今日、私たちの組織が支援する新規の教育関係のプロジェクトについて、各省庁の次官級が集まって審議するための会合が開催されたのですが、そこで教育省の担当局長が、新規プロジェクトに係る、熱のこもった素晴らしいプレゼンを展開してくれました。

「科学によって南部スーダンという国を復興、発展させていくためには、小学校から理数科教育を重視していく必要があり、これは国家の優先的な政策の一つでもあります。これまでにも、日本政府は数多くの小学校の建設を支援し、また、教員養成校の建設もジュバとアウェイルで支援してくれていますが、それに付け加えて、小学校の教員に対して理数科教育を強化させるための研修を実施する事業も支援してくれようとしています。確かに、中国の教授が南部スーダンにやってきて、科学技術の振興が大事だと言い、多くの留学生を中国に送る支援をしてくれていますが、このプロジェクトが始まれば、我々は自分たちの国で子供たちに理数科教育を提供できるようになるのです。これまで数年にわたり東京から多くのミッションがきて、事業の形成のための議論を重ねてきました。その共同作業の結果がこのプロジェクトスキームです。もちろん、一気に南部スーダン全体の小学校の教員を対象にすることはできませんので、National TrainerState TrainerModel Teacherを選定し、いくつかのモデル州も選定し、まずは小さなところから始めて、試行錯誤を繰り返し、3年後には南部スーダン全体に展開していく予定です。州の中でも、自ら進んで教員のトレーニングをやろうという意志のある州を選んで重点的に支援しくつもりです。州独自のイニシアチブがないところに支援しても何の意味があるでしょうか…」

彼の熱のこもったプレゼンテーションとその後の質疑応答への受け答えに私は惚れ惚れしてしまいました。海外に何十年も住んで内戦が終わって帰国してきた人たちが役人の中にも多い中で、彼は内戦中もずっと教鞭をとり続けていた人です。それにも関わらず、英語もスピーチも西洋で教育を受けた人たちよりも堪能で、ユーモアもあり、いつも会議の場を和ませてくれます。そのようなカウンターパートナーに恵まれたことに心から感謝し、これから始まる新しいプロジェクトを彼のリーダーシップの下で展開していけることを非常に嬉しく思いました。

これまで、様々な援助の事業をみてきましたが、成功する事業には必ずといっていいほど、素晴らしいリーダーの存在があります。インドのデリーメトロやコミュニティ開発事業、カンボジアの水道公社等々…どんなに素晴らしい絵が描かれていても、そして、どんなに素晴らしい専門家を派遣しても、結局優れたリーダーがいなければ、事業は進まなくなってしまったり、様々な綻びが出てきてしまったりするものです。そのため、今回の事業も彼がいる間は大丈夫だな…と胸をなでおろしました。そして、今日の会議は、財務省の役人である議長の賛辞で締めくくられました。「私は一刻もはやくこの事業が始まることを希望する。子どもたちがこの事業の成果を享受するのを早くこの目でみたい。」

ただ、一方で、上司の一言がいつも頭のどこかにひっかかっているのも確かです。「素晴らしいリーダーはいろんなところから引っ張りだこなので、なかなか一つのポジションに留まらないんだよね…」今後の事業の命運がかかっているだけに、教育省の人事は私の心配ごとの一つではありますが、事業を通じて彼のようなリーダーを数多く発掘していければ…と考えております。


「国づくりは人づくり。その人づくりの要は、人間誰にでもあるリーダーシップ精神を引き出し、開花することに尽きると思う。未来の社長や首相を発掘せよなどというのではない。育児や家事に勤しんでも、家庭の外に出てどのような職に就いても、リーダーの仕事には夢と情熱と信念がある。頭とハートが繋がっているから、為すことが光る。心に訴えるものがあるから、まわりの人々にやる気と勇気をもたらす。そのリーダーの善し悪しが、開発途上国の発展に決定的な差を生む。」

『国をつくるという仕事』 元世界銀行副総裁 西水美恵子 より

2009年9月18日金曜日

訪問者

今週はアポイントメントなしの訪問者が事務所に数多くやってきました。うちのコミュニティに学校を建設してほしい、うちのコミュニティに水がこなくなったからレターを書いてほしい…と内容は様々。私たちの組織の知名度があがった証拠かなと喜びながらも、対応に追われバタバタしました。その中に、素敵なスーダン人女性がいました。彼女は、南部スーダンで4年間Human Rights Lawyerとして活動を続けたものの、(上からだけでなく)やはり草の根レベルから人々のマインドや生活を変えていくような事業をしなければ、南部スーダンは変わらないのではないかと考え、今年に入ってから‘The Roots Project’というものを立ち上げ、南部スーダンの女性が作る手工芸品を商品化して売ることによって、女性の選択肢を増やすことを目指しているようです。彼女いわく、南部スーダンの女性は、民族ごとにすばらしい手工芸品(ビーズアクセサリーや刺繍、かご等)を作る伝統的な技術を持っているものの、その技術が生かされないまま、眠っているという現状に目をつけ、南部スーダンの女性がつくる手工芸品に市場価値がつくように支援をしながら、彼女たちが自信と現金収入を得られる場所をつくりたいということのようです。手工芸品のサンプルを見せてもらいましたが、アクセサリーなどは買ってもいいかなと思えるようなデザインと品質で、ぜひがんばってほしいなぁと思いました。

日本にいるときには、社会起業家(社会問題をビジネスという手法を用いて解決しようとする人達)に興味を持ち、社会起業家を支援する財団やファンドを調べたりもしましたが、その多くは、Innovativeな手法を用いて事業を行う人たちを対象とするものか、または、マイクロファイナンスのような形で融資をする形式のものであり、Innovativeではないけれど、社会に必要とされていることをがんばってやろうとしている人たちに対する支援スキーム(特に初期費用を融資としてではなく無償で提供するような団体)はあまり見かけなかったように思います。でも、多くの途上国では、Innovativeな手法以前に、当たり前のことが当たり前になされていないという現状があることから、この‘The Roots Project’を立ち上げた女性のようなChallengerたちを支援するような仕組みが世の中にもっとあってもいいのになぁ…と感じております(私たちの組織には残念ながらLocal NGOを直接支援するようなスキームはありません)。11月にジュバで‘The Roots Project’で作られた作品の展示会が開催されるようですので、まずは作品を見に行って、個人的に何か応援できないかを探ってみるつもりです。この女性のような社会起業家がスーダン全体で増えていくといいなと心から願っています。

◎オシャレなスーダンの女性たち

2009年9月15日火曜日

地鎮祭

今日はアウェイルという南部スーダンで4番目に大きな都市に日帰りで出張に行ってきました。人口が密集していることから、アウェイルはChina of Sudanと呼ばれているとのこと。そこで、日本の支援で建設される予定の教員養成校の地鎮祭があり、大使と一緒に参加してきました。南部スーダンの地鎮祭で欠かせないのが、牛です。(インドではありえませんが…)牛を地面に横たわらせて、セレモニーへの参加者はその上をまたぎ、その後その牛は頭を切られて殺されます。この儀式の意味は、教育省次官によれば、いいことが起きますように、そして、悪いことをした人には厳しい罰が下されますように、ということのようです。今回は一頭だけだったのですが、大使が以前参加した地鎮祭では5頭の牛をまたいだとのこと…日本で行われる地鎮祭も外国人から見たら不思議なものに見えるのかもしれませんね。その後、教育省の大臣がレンガをいくつか積み重ね、地鎮祭の儀式は終わりました。この出張時に、最近着任されたばかりの教育省次官に初めてお会いしたのですが、ノルウェー等の外国に20年近く住んでおり、一週間前に次官に就任するために南部スーダンに戻ってきたとのこと。かなり合理的でユーモアのある方で、一緒にいい仕事ができればいいなと思ったのですが、教育省の他の人たちは外国から戻ってきた次官をどのように受け止めているのでしょうか。内戦中もずっと南部スーダンに残って教師を続いけていた人間から見れば、かなり複雑な気分なのではないでしょうか…様々な民族、そして、様々なバックグラウンドの人たちが一緒に「国づくり」の現場では働いていますので、その「差異」を超えられるようなリーダーシップが大臣や次官には求められています。

◎セレモニーでセメントを塗る教育大臣

◎アウェイルの空港で教育大臣の到着を歓迎する人たち




2009年9月11日金曜日

Curfew

一昨日の午前中は平日だったのですが、急遽ホテル待機(外出を控えること)になりました。朝ドライバーや南部スーダン政府の人たちから「今日は家を出ることができない」と連絡があり、情報収集をしてみたところ、どうやら最近増えている一般犯罪を減らすために、個々人が家庭内に違法に所持している武器を回収する目的で、軍が道路を封鎖してジュバ市内の個人の家を一軒ずつ捜索しているということがわかりました。そのため、私たちもホテルで待機することに。そして、私たちのホテルも一部屋ずつ軍がチェックしていきました。私はドキドキしながら、すべてのカバンや棚を開いて待っていたのですが、なぜか私の部屋はチェックされずに終了…どうやら忘れられたようで…なんだか拍子ぬけしてしまいました。

内戦終了後すぐの頃には、定期的にこのような武器回収(いわゆる「刀狩り」)をしていたようなのですが、内戦終了から4年以上が経ち、最近はこのような捜索はあまり行われていなかったので、突然の実施に驚きました。でも、事前に知らせがあれば武器を持っている人たちに隠す時間を与えてしまうので、やっぱり今後も突然このようなことは実施されるのでしょう。これによって、本当に一般犯罪減少への効果があるといいのですが…

また、今日はお昼を食べるためにホテルに戻ってくると、ホテルの前の道路(2kmぐらい)が全て破壊され、車が通れない状態に…朝は普通に道路があったところに、ほんの数時間の間に道路がなくなっていることにかなり驚きました…ホテルの人に事情を聞いてみると、新しく舗装道路をつくるために破壊したようだとのこと。事前にポスターを貼るなどして知らせてくれればいいのに…事務所で一緒に働く日本人の女の子と一緒に「ジュバは本当に話題に事欠きませんね…」と苦笑い。破壊された道路はいつ舗装されるのでしょうか…それについても何の知らせもないので、できるまで気長に待つしかなさそうです。

◎破壊されたホテルの前の道路(コンクリートがすべて壊された状態に)

2009年9月7日月曜日

OG

スーダンにいたら、一通一通のメールが手紙のような重みを持って届きます。ネット環境がよくないので日本や他の外国にいるようにタイムリーには返事をすることができませんが、何度も読んだり、一つのメールを受けて一人で深く考え込んだりしています。

最近、一人で仕事についてぐるぐると考え込んでいた時に、今は別の組織で活躍されている元職員の方から、私が考えていることについて、ちょうどいいタイミングでメールをいただきました。想定していなかった方から、私の頭の中を見透かすようなメールをいただいてとても驚いたのですが、遠い場所にても、違う組織で働いていても、同じ思いを持って働いている人であれば、いろんな形でつながっているんだなぁと実感し、とても安心させられました。こういうものの連鎖の中にいる自分をとても幸せに感じると同時に、その連鎖を誰かにつないでいけるような人でありたいなと思いました。私の入った組織は、その組織をやめていった人たちも、組織に残った人たちといろんな形でつながっていて、面倒をみてくれたり、一緒にお酒を飲んだり、人生のアドバイスをくれたりします。そういう有機的なつながりがある組織はやっぱりいいなぁと遠いスーダンの地で実感しています。


「時間は戻らない。命に関わることを味わうたびに、私たちは深くそう思う。手に持てるのは今の瞬間だけだ。」 

『イルカ』 よしもとばなな より

2009年9月6日日曜日

休日の過ごし方

9/3に完全に南部スーダンの中心都市ジュバに引越し、ジュバでの駐在生活@ホテル がはじまりました。

初めての週末は、上司と洗濯機を探し求めてジュバ中のマーケットを散策。車で4-5つのマーケットに行ってみたものの、結局適当な洗濯機は見つからず…結論としては、ジュバでは外国から輸入してきた洗濯機を購入するよりも洗濯をしてくれるメイドさんを雇う方が安いため、庶民は洗濯機を買わないのだろうということに。いろんなものをまとめて洗濯機で洗って太陽の下に干すのが好きな私としては残念な結果に…ホテルで毎日手洗いするしかなさそうです。たらいを買わなければ…

また、別の時間は同じホテルに住む日本人の人たちとバレーボールをして過ごしたり。普段ボールを打ったりしない私は、1時間弱のバレーボールの後に腕の様々なところに青あざができて、虐待を受けたみたいな状態になってしまいました…ちなみに、近々ホテルが卓球台を購入してくれるということで、みんなで心待ちにしています。ダルフールの国連のコンパウンド(住居)には卓球台があり、職員はすることがないので駐在期間中にかなり卓球がうまくなるらしいです。私たちも日本に帰る頃には…!!!

あとは、ネットもあまり通じないので、本を読んだり、残った仕事を片づけたり…あっという間に週末も過ぎていきます。そうそう、ビールを片手にトランプゲーム(大貧民)もよくやってます。

◎ホテルの唯一の憩いの場所 カフェ

2009年9月3日木曜日

想像力

今日のSudan Vision(ローカル新聞)のトップ記事。「今年だけで南部スーダンでは少なくとも1,200人が部族間紛争で死亡。また、25万人が国内避難民に。南部スーダン政府は2005年に内戦が終結して以来、武装解除をほとんどして来なかったからこのような結果に。犠牲者に特に女性と子供が多いのが特徴。」…同じ南部スーダンにいても、中心都市ジュバにいると、部族間の衝突に遭遇することはないため、なかなか想像することが難しい…そもそも、南部スーダンという文脈ではこの1200人という数字は大きいのか小さいのか…普段スーダンで生活している私でさえ、日本に一時帰国してしまうとスーダンでの生活が夢のように感じられて、リアリティが失せてくるのを実感…それなら、尚更普段普通に日本で生活している人たちにスーダンの現状にまで想像力を働かせてほしいという方が難しいのかもしれない…

職場の先輩から、入社したばかりの時に、「この仕事は『想像力』が勝負の仕事。それぞれの業務の先にどのような人たちが待っているのかということを考えて」と言われたことがあるけれど、自分とは国籍も教育的バックグラウンドも社会の中での位置付けも全く異なる人達に対して想像力を働かせるということは、言うは易し、行うは難し…

内戦終結後も家族を周辺国に残して南部スーダンで働く人たち

20年以上の内戦中にスーダンに残って教師を続けてきた人たち

内戦終結後も部族間紛争に怯える南部スーダンの人たち

学校でまともな教育を受けることができない子供たち

そして、そもそも学校に行きたくても行けない子供たち…

彼らの立場に立って、上からの目線にならずに、これからの南部スーダンの未来に一緒に思いを馳せることができているか…自問自答する日々です。

えりちゃんのブログを読むと 本当にいろんなことを考えさせられます。 先日、ラジオで黒柳徹子さんが、 アナウンサーの「私たちにできることは何ですか?」との問いに、 「もっと関心をもつことです。」と言ったの。 「いろんな国の状況に関心をもつこと。その国の人たちがどんな状況で どんなに苦しんでいるかを知ること。そうすると、必ず、自分の近所の お年寄りや立場の弱い人たちの事が気になってくるから」との言葉。 私は貧しい国の人たちに対する「募金」や「援助物資」のような言葉が最初に 出てくるんだと思っていたから、とても新鮮に感じて聞きました。 もっとみんなが、心から身近な人たちを大切に思えるようになったら、 きっとその目は世界にも向いて行くんだろうなぁって思った。 遠回りなようだけど、きっとそれが一番確固たる動きになるのかなぁって。

長野の田植えで出会ったSachikoさん より

2009年9月2日水曜日

Dream Land

 今回はドバイ経由で日本からスーダンに戻りました。ドバイで約10時間の待ち時間があったので、ドバイの市内観光のバスツアーに参加することに。

アラブ首長国連邦を構成する7つの首長国の一つであるドバイ首長国の中心都市ドバイは、人口の8割近くが外国人。特に南アジアからの出稼ぎ労働者が多く、私たちのツアーガイドもインド人で、車の中から見かけた工事現場にもターバンを巻いたシーク教徒(インド人)がいました。地元の人の数は少ないので、地元の人を見つける方が難しいとのこと。50年前までには何もなかった砂漠の土地に巨大な都市をつくりだした「ドバイ建設の父」シェイク・ラシッド元首長のビジョンと行動力がみごとに結晶化されたドバイの町並み…すべてが美しく整然としており、オイルマネーのおかげで地元の人々は税金も教育費も医療費も光熱費も支払う必要はない…まるで夢の国のようだな…と思いました。でも、人工的な印象はどこかシンガポールと似ています。砂漠につくられた町なので、人々が使う水の半分は海水を淡水化することによって、そして、もう半分は下水を再処理することによってまかなっているそうです。

今でもドバイは建設ラッシュで、多くのクレーン車があちらこちらで稼働してました。このような中で暮らす外国人労働者はドバイをどのように見ているのでしょうか…「地元の人にとっては天国だけれど、外国人労働者の生活は楽ではない。家族同伴は許されない(家族へのビザは出してもらえない)、生活費は高い、単純労働しかできない(管理職は地元の人間しか就けない仕組み)…」人口の2割を占める地元の人々の豊かさを人口の8割を占める外国人労働者が支えるシステム…‘よそ者’をうまく社会システムに組み込んでいくことによって国力を高めるアメリカと、‘よそ者’をある一定の制限の下で最大限に活用することによって国力を高めようとするアラブ首長国連邦。そして、‘よそ者’をそもそも受け付けないことによって国力が維持できると考える日本…それぞれの国の生き方(政策)が外国人の受け入れ方一つをとっても垣間見れます。翻って、スーダン…オイルマネーを活用して、第二のドバイを目指すべく、ハルツームの開発計画を進めているようですが、スーダンの大統領はその先にどのようなビジョンを描いているのでしょうか…

◎ドバイの町並み