実は、先週、南部スーダンで教育セクターを支援する援助関係者と教育省の役人が集まって、来年度の教育セクターの予算について協議をする会合があり、初めて私も参加したのですが、その場で、教育省の役人の一人が私の所属する組織を名指しで批判しました。「教育賞にお金をくれずに、自分たちの好きなように好きなことをやっているだけだ」と。南部スーダンに着任して一か月そこらの私に、彼の批判がどれだけ的を得たものなのかを判断するだけの材料も経験もなかったわけですが、きっと彼にそう思わせてしまう何かがあったのだけは確かなのだろうとその夜は落ち込みました。もっと我々の援助の仕方や哲学をわかってもらう努力をしなければ…と自分を奮い立たせていたのですが、今日、先週の落ち込みを挽回させるような嬉しい出来事があったのです。
今日、私たちの組織が支援する新規の教育関係のプロジェクトについて、各省庁の次官級が集まって審議するための会合が開催されたのですが、そこで教育省の担当局長が、新規プロジェクトに係る、熱のこもった素晴らしいプレゼンを展開してくれました。
「科学によって南部スーダンという国を復興、発展させていくためには、小学校から理数科教育を重視していく必要があり、これは国家の優先的な政策の一つでもあります。これまでにも、日本政府は数多くの小学校の建設を支援し、また、教員養成校の建設もジュバとアウェイルで支援してくれていますが、それに付け加えて、小学校の教員に対して理数科教育を強化させるための研修を実施する事業も支援してくれようとしています。確かに、中国の教授が南部スーダンにやってきて、科学技術の振興が大事だと言い、多くの留学生を中国に送る支援をしてくれていますが、このプロジェクトが始まれば、我々は自分たちの国で子供たちに理数科教育を提供できるようになるのです。これまで数年にわたり東京から多くのミッションがきて、事業の形成のための議論を重ねてきました。その共同作業の結果がこのプロジェクトスキームです。もちろん、一気に南部スーダン全体の小学校の教員を対象にすることはできませんので、National Trainer、State Trainer、Model Teacherを選定し、いくつかのモデル州も選定し、まずは小さなところから始めて、試行錯誤を繰り返し、3年後には南部スーダン全体に展開していく予定です。州の中でも、自ら進んで教員のトレーニングをやろうという意志のある州を選んで重点的に支援しくつもりです。州独自のイニシアチブがないところに支援しても何の意味があるでしょうか…」
彼の熱のこもったプレゼンテーションとその後の質疑応答への受け答えに私は惚れ惚れしてしまいました。海外に何十年も住んで内戦が終わって帰国してきた人たちが役人の中にも多い中で、彼は内戦中もずっと教鞭をとり続けていた人です。それにも関わらず、英語もスピーチも西洋で教育を受けた人たちよりも堪能で、ユーモアもあり、いつも会議の場を和ませてくれます。そのようなカウンターパートナーに恵まれたことに心から感謝し、これから始まる新しいプロジェクトを彼のリーダーシップの下で展開していけることを非常に嬉しく思いました。
これまで、様々な援助の事業をみてきましたが、成功する事業には必ずといっていいほど、素晴らしいリーダーの存在があります。インドのデリーメトロやコミュニティ開発事業、カンボジアの水道公社等々…どんなに素晴らしい絵が描かれていても、そして、どんなに素晴らしい専門家を派遣しても、結局優れたリーダーがいなければ、事業は進まなくなってしまったり、様々な綻びが出てきてしまったりするものです。そのため、今回の事業も彼がいる間は大丈夫だな…と胸をなでおろしました。そして、今日の会議は、財務省の役人である議長の賛辞で締めくくられました。「私は一刻もはやくこの事業が始まることを希望する。子どもたちがこの事業の成果を享受するのを早くこの目でみたい。」
ただ、一方で、上司の一言がいつも頭のどこかにひっかかっているのも確かです。「素晴らしいリーダーはいろんなところから引っ張りだこなので、なかなか一つのポジションに留まらないんだよね…」今後の事業の命運がかかっているだけに、教育省の人事は私の心配ごとの一つではありますが、事業を通じて彼のようなリーダーを数多く発掘していければ…と考えております。
「国づくりは人づくり。その人づくりの要は、人間誰にでもあるリーダーシップ精神を引き出し、開花することに尽きると思う。未来の社長や首相を発掘せよなどというのではない。育児や家事に勤しんでも、家庭の外に出てどのような職に就いても、リーダーの仕事には夢と情熱と信念がある。頭とハートが繋がっているから、為すことが光る。心に訴えるものがあるから、まわりの人々にやる気と勇気をもたらす。そのリーダーの善し悪しが、開発途上国の発展に決定的な差を生む。」
『国をつくるという仕事』 元世界銀行副総裁 西水美恵子 より
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